Gil-Martinの部屋

Gil-Martinの愛する音楽、感じたことなどなど

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大自然のなかの愛と性
Brokeback Mountain(『ブロークバック・マウンテン』)見てきました。とうとう。いつも読んでくださっている方は映画見るたび、文句ばっかり言ってるなーと思っていらっしゃると思うので、こう言うのはちょっと気がひけるのですが、この映画、正直言うと、過大評価されていると思いました。というか、最高のラブストーリーとかいう評価が間違っているのでは、と思います。ウェブサイトはこちら。日本版/英語
Brokeback Mountain
実際、アメリカではタブーの話題であるために、あれだけ評価されたという点が否めないと思います。もちろん、今までゲイの物語はあるし、それほど珍しくもなくなっているけれど、ゲイのカウボーイの話ですから。でもゲイのカウボーイが、保守的な周りの抑圧に耐えて愛を貫いた素晴らしいお話かっていうと……? ちょっと疑問。大いに疑問。

どちらかというと、現実的なお話だったと思うのです。愛を貫くために特別なことをしたわけでもなければ、戦いもせず、犠牲もそれほど払ったわけでもない。あの時代に、あの地域で、同性愛的傾向があれば、ああいう暮らしをしたんだろうということが真面目に描かれていたと思います。

わたしが好感を持ったのは、ジャックのほう。ジャックは自分のなかの衝動に正直。Gaydarビンビン。そして、いつも夢見がちで、二人で牧場やろうよ、二人だけで生きていこうよ、と言い続けています。といいながら、彼は逆玉の輿に乗り、生来の調子のよさを生かして、ちゃんとやっていっている。妻とのあいだも冷え、舅の抑圧もありますが、それなりに社会的な役割を果たすことができています。彼の最期は確かに悲惨であり、イニスのような臆病者からすれば、自分の性癖にあまりに正直で、不注意だったせいかもしれないのですが、彼のほうが自分の人生を肯定的に捉えられていたのではないでしょうか?

ジャックを演じたJake Gyllenhaal、わたしはこの映画で見直しました。いつも線の細い印象だった彼。少々オタクっぽいイメージでした。ショービズ一家出身ですが、一番よく知られていたのは、Kirsten Dunstとくっついたり離れたりで長年つきあっていた(いる?)こと。別れてたあいだにも誰かまたかなりハイプロファイルな人とデートしていたのが話題になっていたはず。ということで、本業以外の部分でより有名だった彼も、今までの繊細な現代っ子というイメージを排して、調子のいい、最後のほうではおっさんくさいカウボーイを好演してました。

問題は、イニスの方ですね。わたしがイニスが嫌いだということから考えると、Heath Ledgerはいい仕事をしたんだと思います。イニスは、ただ流されるまま。優柔不断。どうしたいのか、何を求めているのか、今ひとつわかっていない。社会的なプレッシャーだとか、内面化されたホモフォビアだとかは理解します。ところが、だからと言って、それを何とか自分のなかで処理しようという努力が足りない。まず結婚を選んだ。ところが、それが彼の求めているものであろうがなかろうが、自分が選んだものだからそれなりの努力をしてもいいはずなのに、今ひとつそういう努力もしない。悪い父親ではないけれど、良い父親でもない。

夫としては最低。Michelle Williams演じるアルマとのあいだに最初から愛がなかったとは思いません。が、ジャックに対する思いは置いておいても、彼はアルマとの生活に対してまったくヴィジョンもなく、人生を切り開いていく力もない。結局は、自分の知っている場所、仕事、生活のスタイルから脱出しようという勇気がまったくない男なのです。都会に出るのもいやで、それほどお金にならず、しかも秀でた能力を持ち合わせているとも思えないカウボーイの仕事にしがみつき、ただ現状維持ができればいいと思っている様子。そして、避妊も必要のないジャックとのセックスを思い出しているのかどうだか、甲斐性もないくせに「俺の子供を産めない奴とはしない」と言う。もう最低男です。

彼は自分のなかで消化できる以上の快楽と苦痛を知って、混乱に満ちた人生を送っているのでしょう。彼は多分、ジャックには出会わないまま、何も考えない多くを望まない女性と田舎の片隅で生きていければ、一番幸せだったのだろうと思います。彼にはそれだけの能力しかなかったのでしょう。この不器用な男の同性愛的な感情に対する戸惑いを描いていたという点では、この映画はよい映画でした。

本当に本当に最高のラブストーリーだと言うためには、やはり二人は現実を捨てて逃げていなくてはいけなかったと思います。確かに、二人が出会った1963年はまだストーンウォール前で、世の中のゲイの人々に対する理解は低いし、彼らが安全に生きていける場所も存在しなかったかもしれません。でも70年代、80年代と時代は変わり、彼らはニューヨークに、サンフランシスコに、ロスアンジェルスに逃げることができたはず。いや、オースティンに行くだけでも違ったかもしれない。ジャックの言うとおり彼の家族は彼がいなくなっても気にしないだろうし、イニスのほうはそれほど悪くない父親だけれど、娘と一緒に住むことも嫌がるような男であり、養育費だけ稼げればいいはず。ということは、どうせ肉体労働者で特殊技能でお金を稼いでいるわけではないのだから、どこへ行ってどんな仕事でもして、生きていくことができたはずです。

優柔不断のイニスは、気楽な性愛の快楽に満ちたBrokeback Mountainでのひと夏を思い出し続けるだけでしょう。最後の言葉、”Jack, I swear….” What does he swear?  いつも混乱していて、優柔不断の彼らしく、最後までジャックへの思いを言葉にはできません。"I swear I loved you"? "I swear I won't forget you" ? "I swear I won't sleep with anyone else"?

キャッチフレーズに”Love is a force of nature”とありますが、本当は彼らの愛は大自然のなかでの奔放な性だった、くらいなものなのでは?

この映画の一番大きな意義は、アメリカの理想とする男らしさへの攻撃です。アメリカらしい男のもっともたるものである、カウボーイ、その彼らが実は同性愛だなんて、という点ですね。そしてこの映画に関わった人間を見ると、非常に興味深いことが言えます。まず原作はAnnie Proulx。The Shipping Newsの原作でも有名なピューリツァー作家。女性です。そして監督は、台湾人のアン・リーですね。Jake Gillenhaalはアメリカ人だけれども、Heath Ledgerはオーストラリア人。アジア人の男性がアメリカ人に「男らしくない」と見られることが多いことを考えると、アン・リーは復讐しているんじゃないか、という気さえしてきます。Jake Gillenhaalはカウボーイを演じる俳優としては非常に不思議な選択でしたが、このアメリカ人の男らしさの理想を裏切る役を演じる勇気があるアメリカ人俳優がいなかったのかもしれません。ここまでこの映画に大騒ぎすることに、ゲイ・レズビアンの人々に対する受け入れ方が日本に較べて断然、進んでいるアメリカの根深いホモフォビアが見られる気もします。

MichelleandHeathしかし、Michelle WilliamsがHeath Ledgerの子供を妊娠したと最初に聞いたときは驚きましたが、これはこの映画を撮っているときだったんですね。Naomi Wattsとくっついたり離れたりしているHeath LedgerがなぜMichelle Williamsなんかと? と思ったのです。Katie Holmesと同じくDawson’s Creekで世に出て来たMichelle Williamsですが、ティーンエイジャーのあいだだけ綺麗に見えるブロンドという種類の女性だと思います。Dawson’s Creekの最後のほうなんか、見苦しかったですもんね。わたしが思うに、Heath Ledger、この映画を撮っているあいだに自分の男らしさに疑問を持ち始めて、手近で手を打ったんじゃないでしょうか? いや、とっても失礼なこと言ってますが。

……とは言いつつも、Village Peopleを思い出していただければわかるように、カウボーイというのはゲイの人のファンタジーの一つであって、そういう意味ではゲイの方は大いに楽しんでご覧になったかもしれないなと思います。

あ、それとエンドクレジットの最初の曲はカントリーで、立ちあがろうかなと思っているときに流れてきたRufus Wainwrightの"Maker Maker"は、じーんとしました。Rufus、カウボーイは好きかもしれないけど、彼自身はカウボーイにはなりたくないだろうなあ。
| gil-martin | 映画 | 22:18 | comments(7) | trackbacks(0) |
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全然的外れで正当化した感想。びっくり。
| uj | 2006/04/08 12:52 AM |
ujさま
びっくりさせてごめんなさい。ujさまが「全然的外れ」と思うものの見方も存在することをわかっていただければ、うれしく思います。
| Gil-Martin | 2006/04/08 1:03 PM |
うーん。おもしろいなあ!
この映画に大変興味をもったよ!
この記事を読んだからこそ、映画を観たいと思った!
感想は人それぞれいろんな感性をもってみるからこそ、十人十色やから、ワタシも違った感想を持つかもしれへんね!
そこも楽しみ!
| オレ様 | 2006/04/09 9:18 AM |
話題の映画だけに、「感動のラブストーリー」に水を差すような見方は歓迎されないのかもしれません。どうせヒネクレ者なので。そう簡単に感動しない(簡単に泣くけれども、自分のなかの一部がいつも「待てよ」と思ってしまう)わたしは、考えれば考えるほど複雑な気持ちになってしまった映画なのですが。

ぜひぜひオレ様さまもご覧になってくださいね。個人的には『バッド・エデュケーション』のほうがお奨め。もっともと複雑な気持ちになりますが。ご覧になりました? でも、美しい愛の世界に生きる(?)オレ様さまには刺激が強すぎるかも……。
| Gil-Martin | 2006/04/10 1:16 PM |
Gil-Martinさんの感想は前知識や考察が深く、プラス歯に衣着せぬ感想なあたりが好きです(笑)
とりあえず超斜め読みで原作(訳)立ち読みだけして筋は掴んでますが、映画はまた撮り方違うみたいですね。気になるので今日観にいってこようかな。

前評判が良すぎると・・・っていうのはありますね。最近やっと観た『クラッシュ』がそんな感じでした。もちろん良かったは良かったんだけど。個人的に『ホテル・ルワンダ』はお勧めしたいのですけど、これも評判やたら良いからなぁ。
| orangeflower | 2006/04/12 12:21 PM |
すみません、バトン廻させていただきました。お暇なときがありましたら是非どうぞ。
面倒だからスルーとか廻さず止めちゃうとかももちろん可です。
| orangeflower | 2006/04/12 12:36 PM |
Orangeflowerさま
原作、ちょっと興味あります。短編なんですよね。Annie Proulxは読んだことないのですが、なんだかじわじわきそうな予感がします。でも、こんなに話題だとかえって買うのが恥ずかしくて……。図書館でしょうかね、こうなったら。

『クラッシュ』はうん、多分見ないかも。『ホテル・ルワンダ』はいずれDVDで真面目に見ようかなと思ってます。

バトンありがとうございます。いずれ。
| Gil-Martin | 2006/04/14 9:19 PM |









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